ムッシュ・カノルスは客もまばらなBAR公家のステージで歌っていた。
彼は長い間、歌を人前で歌っていなかった。
だが、その長い空白も吹き飛んでしまった。
そう、再び彼はステージに還ってきたのだ。
スポットライトの光を浴びながら、彼はだんだん生き返っていくような心地がしていた。
それはわずかな光だったが、彼の心の奥を徐々に、ゆっくりと熱していった。
歌い終わった時、まばらな拍手が聞こえてきた。
ほとんどの人は友人たちとの話に夢中で、社交辞令的に拍手したに過ぎない。
だが、彼は満足していた。生きる道の明かりが自身に再び灯されたことを知ったからだ。
けれど、彼もまた知らなかった。
店の奥のテーブルに、彼の歌声を熱心に聴いていた一人の女がいたことを。
彼女は表にこそ出さなかったが、カノルスの歌声を全身で受け止めていたのだ。
歌が終わっても、ひとみを閉じながら、その歌のメロディを反芻していた。