夜がやってきた。
久しぶりに戸棚から出してきたタンブラーグラスで、ハイボールを作る。
このグラス、確か買ったのは10年近く前。
おっちょこちょいの僕には珍しく、割ってしまうこともなく長いこと僕の喉を潤すのに役立ってくれていた。
まずグラスの中に氷を目一杯いれ、そこに水を注いで氷の表面を潤わせる。
氷を残したまま、水を一度払い、そこにウィスキーとソーダをゆっくり注ぐが、氷の表面はすでに濡らしてあるので、泡立ちが少なく炭酸が飛びにくくなる。
黄金色の泡沫はグラスの中で揺蕩い、表面に躍り出てはウッディなアロマを放出する。
ハイボールは食中酒としてよく合う。
今日は、鮭とキノコの和風パスタに合わせてみた。

この時期、鮭の脂が乗っているのでうまいのだが、その分口の中がオイリーになってしまう。
それをこのウッディさが爽やかに洗い流してくれる。ウマいねえ!
ところが、である。
2口目、口を付けた時、グラスのなかで氷がカランと回った瞬間、ピシっという音とともに側面が割れ、「黄金の滝」が流れ出してしまった。

何となくだが、これは暗示なんじゃないか、とその刹那思った。
整理整頓に奔走した年末年始、ある意味では、過去を精算する行いでもあった。
それが今このときに、ひと段落着いたことを報せてくれたかのよう。
古い自分から、新しい自分へ。
旧態依然の何かが壊れて、新進気鋭の何かが始まる。
それを象徴するかのような、「カラン」「ピシ」というサウンドだった。
グラスが割れて残念・・というよりは、清々しさのような気持ちをこの音は連れてきた。
こわれもののこの世界では、何ものも変化を免れない。
その変化が、前進になるのか、後退になるのかは己の気持ちと行動で決めたらいい。
前進あるのみ、だ。
そう呟いて僕は、グラスを換えてもう一杯、ハイボールを呷るのであった。