観終わったとき、僕はそのままシートから動けなくなっていた。
ーーーー彼はまだ生きている。
彼が今いるのはブラックスターという星なのか、もうその先なのかはわからないが。
苦悩する男がそこにはいた。
世界から喝采され、手にしたいものはすべて手にしたはずなのに。
仮面をはぎ取ってしまえば、彼はただの無防備な男だった。
だが、彼は人知れず、その苦悩に強い意志で立ち向かい続けていた。
あるときは彼が持つ英知を結集して。
またあるときは、泥濘に嵌り、のたうち回る狂人として。
常人では到底勝ち目がないとあきらめるにちがいない。
周囲の人間からは物静かな、聡明な男とみえただろう。
だが、それは彼の本質ではなかった。
彼の内奥には自分自身をも破壊しかねない狂気をはらんでいた。
それは、彼が獲得していた芸術というエネルギーとの代償だった。
ハロー、スペースボーイ
君は自由になりたいかい?
君は自由になりたくないのか?
地球に不自由さを感じた彼は宇宙に交信を試みる。そっちへ行かせてくれないか?
だがその試みはうまくいかない。
ムーンダストが君を覆ってしまう・・覆ってしまう
さよなら、愛しい人
結局その後も彼は、ボロボロのユニオンジャックのコートを羽織り、地球人(EARTHLING)として戦い続けなくてはならなかったのだ。
誰のために?
衣装のようにボロボロになった、己の魂のために。
一度、地球に落ちてきた男はあちらへ戻る術(すべ)を失っていた。
だから、歩き続けた。
光と影、そのはざまを行ったり来たり。
そしてついに彼が死に直面したとき、今度は宇宙の方から彼に接触してきたのだった。
彼は迷わずブラックスターに乗り込む決心をした。
一度死んだ象徴のスカルがあしらわれたシューズを履き、携帯電話は離れゆく大地に向かって投げ捨てた。
死して尚、新しい生命を手にしたかのように。
”すべてを明らかにすることはできない”
たとえ、それがだれであっても。
イマンよ、レクシーよ、ダンカンよ・・愛しいひとたち。
すまない。
ブラックスター、彼らに「心から愛している」と伝えてほしい。
トム少佐がかつてそうしたように。
彼のメッセージは、いつも彼自身の怪物に向かって言いなだめているようだ。
彼は諦めない。
人生という挑戦をやめるわけにはいかなかったからだ。
The Sun Machine is Coming Down, and We’re Gonna Have a Party
太陽マシンが降りてくる、そしたらパーティをしようじゃないか