そう、彼は生きていた
薄汚れてはいたが、逞しく、筋肉には艶があり
目にはキラリと光を宿してる
彼は自分で作り上げた小さな船に乗っていた
風に乗り、波に乗り
鋭いスピードが出る
彼のかつて住んでいた街では
彼は死んだものとされていた
かつて乗っていた大きな船はセイレンに惑わされ
沖で座礁し沈没したからだ
多くの乗組員が行方しれず
彼もその1人だった
彼は幸い生き残ったが
記憶は失われていた
一度、海で死に
もう一度生まれ変わったということかもしれない
船を作る技術などなぜ知っているのか
彼自身もわからない
まるで誰かが彼の身体に乗り移ったように
彼は新しい人生を生きている
そして海で旅を続けている
何かに導かれて
向かうべき場所は
魂が知っていた