2020年1月のある日、北欧アイスランドの首都レイキャビクから車で南東に約1時間、ネシャヴェトリルという場所に僕はいた。辺り一面は雪に覆われた極寒のなか、僕は夜空をひたすら見つめていたのだった。
20時を過ぎた頃、夜空に、うっすらと雲のような、そうじゃないようなモヤがかかり始める。
待ち焦がれていたナイトフェスティヴァルがついに始まったのか?!という予感が高まったとき、この旅のために手に入れたカメラ、GoProをスノーウェアから取り出して願をかけた。
「頼む。君はどちらかと言うと寒さに弱くて、バッテリーのもちが気温如何で劇的に悪くなってしまうのは知ってる。けれど、この瞬間、この時のために君をここに連れてきたと言ってもいいかもしれない。どうか最高のショットを捉えてほしい。ここが踏ん張り時だ」
タイムラプス機能という、長時間露出の写真を何枚も続けて撮影する動画モードを使い、フェスティバルが繰り広げられるであろう空の方向に向けてスタンドを固定した。このモードはカメラ位置を固定し、バッテリーが息絶えるまで撮影し続けるので、途中で動かすわけにはいかないし、バッテリーも換えられない。一度設置したら最後まで、なのである。
それに、辺りは当然真っ暗なので、光量の少ない中、一枚シャッターを切るのに10秒くらいはかかるかもしれない。その計算ならば1分で6枚、10分で60枚、30分で180枚である。この写真を順々に繋げてストップモーションのようなヴィデオを作る。それがタイムラプスである。
撮れば撮るほど、長尺のヴィデオとなるが、30コマで約1秒となる。だから、この計算でいくと10分撮って2秒程度のヴィデオである。だから、それなりの長さのヴィデオにしたい場合、途方もなく時間がかかることがわかるだろう。
それに、GoProは高性能とはいえ、暗い場所の撮影に弱いという。レンズが大きいほど暗いシーンでは有利だが、そもそもこのカメラはアクションカムである。バンジージャンプやスキューバダイビングで使うような、小型が売りのカメラなのだ。
そのあたりが気にかかるが、このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
伸るか反るか、やるしかない。
GoProにヴィデオ撮影は任せつつ、愛用のカメラ、キヤノン6DMarkⅡで写真を撮りながら、このフェスティヴァルを見つめ続けた。この旅では何度かオーロラにであうことができたが、明日以降は天候が崩れる予報で、今夜がハイライトに違いないという予感があった。数年前に秋のアイスランドを訪れたときにはハッキリとその姿を捉えることができなかった。今回はオーロラリベンジツアーだったのだ。だから寒い寒い冬にやってきた。
この好機に恵まれて、報われた気持ち。
この光のカーテンをみながら、
「観ることがついにできました。ありがとうございます」
と空に手を合わせて感謝の念を送っていた。
夢中になって時間の経過を忘れていたが、気が付けば1時間ほどが経っていた。
そろそろ寒さが身に染みてきて限界を迎えそうだった。指先、つま先がかじかむ。
僕はもちろん、おそらくカメラたちにとっても同じだろう。
GoPro氏に目をやると、いまだ撮影をしているという意味の、赤いインジケータがまだ灯っていた。僕がかけたハッパに応じてくれているようだ。もう少し、もう少し。行けるところまで行こう。
そうこうしていると、空からは徐々に光のカーテンのダンスが薄らいでいった。先ほども薄らいではまた戻ってくるというのを繰り返してきたのだが、これで本当にフェスティヴァルは閉幕の様相だ。引き際がやってきたらしい。
GoPro氏、6D2氏はほとんどバッテリーをカラにしながらも、この寒さの中、勤勉に職務を全うした!
「諸君ありがとう、暖かい部屋へ帰るとしよう!」
さあ、どんなフェスティヴァルだったのだろうか?
あなたもどうぞ、一緒にフェスティヴァルをご覧ください。
12秒のタイムラプスが撮影できたので、それを編集で1/4のスピードに落としてあります。
ムッシュより
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