fFcanorus × Flamenco Flores 特別対談
インタビュアー:及部紗也加(フラメンコ舞踊教室フローレス主宰)
Q.
まずは2018年にリリースしたイルニェシュタンから4年半ほど経ち、今回のEP制作までの道のりを聞かせてください。このイルニェシュタンはご自身でどういった位置づけの作品でしょうか?
A.
そうですね、これまではかなりマイペースに取り組んで来ました。
過去、数曲入りの小さなサイズの作品は作ったことはありましたが、フルアルバムというのは作ったことがなく、初めてイルニェシュタンで10曲入りの作品に仕上げることができたんです。フルアルバムというのは制作に必要とされる体力的なものとかは別次元だと思います。自分ひとりで作るとなればなおさら。
演奏から編集まで全部自分でやったのですが、経験がなかったのでまったくの手探り。結果、リリースまで3年近くもかかってしまいました。
それだけ苦労して作った作品でしたが、実は悲しいくらいに鳴かず飛ばずで(笑)
正直自信を無くしてしまったのです。とはいえ、イルニェシュタンのリリース後も「YYLNYЁSHUTANT ENCORE(アンコール)」として、本編の10曲に繋げる形で、11曲目から16曲目まで、イルニェシュタンをお求めいただいた方に無料提供でリリースしてきており、ライブも本当にたまに、ですが単発で開催していました。
とは言っても、規模はとても小さいので、多くの人に知ってもらうような活動では全くなかったですね。
(YouTubeで12曲目「V-E-S-T-A-L」、13曲目「MOONLIGHT」、16曲目「Wanderlust waltz」を聴くことが出来ます)
まあそれでも・・鳴かず飛ばずは置いておいても、初めて満足のいく楽曲たちを残る形で仕上げられたこと、それについては誇らしいと思っています。今聴いてもそんなに悪くないし、その時の僕の心境が入っている。未熟な部分も含めて、自分のその時の記録、なんでしょうね。
また、今回の新しいEPを聴いて僕の音楽に興味を持っていただいた方もいると思うので、イルニェシュタンに再びスポットライトを当てることになるかもしれないなと思っています。埋もれたままにしておくのはもったいないなって。
Q.
新しいEP制作のきっかけ。その想いは?そしてオファーを受けたときの気持ちは?
A.
最初は及部先生から、ライブの合間にかけるBGMの制作の依頼ということで受けたのですが、こんなにもどっぷり関わることになるとは思ってもみませんでした(笑)
なんでこうなったのかなあと思い返してみると、自分の音楽が必要とされるうれしさがすごくありましたね。つまり、及部先生のリアクションが尋常じゃない!(笑)
あれ?全然「鳴かず飛ばず」じゃないじゃん!って。ここまでの反応を示してくれる聴き手に出会えてなかっただけだ、と。そこからだんだん自分の音楽への自信を取り戻しつつ、欲が出て来て関わり方が大きく変わっていきましたね。これまで羽ばたけなかった自分も、大きく変わりたい!という気持ちです。
制作を進めていくうちに、自分の明確な意思というよりは、自然発生的にどんどん高まっていったところがあり、最初は映像なんかもオープニングだけ担当させていただく、というのを考えていましたけど、エンディングを映画のエンドロールのような演出にしてもよさそう、じゃあ、それも作らせていただいちゃおうか、などとインスピレーションが湧いてきて提案しました。
及部先生ともお話しする中で、そういうアイデアをどちらともなく膨らましていった感じでしたね。すごく自由で、縛りなくやらせてもらえたのがよかった。それがライブの進行表にどんどん盛り込まれていったという(笑)
そういう、ブレーンストーミングみたいな期間を経ていくつかの曲が出そろい、ひとつのEP作品として制作をしてリリースしてもいいかも、ということに自然にたどり着いた感覚でした。
Q.
私から「the REBORN」という公演名を聞いたときどんな感想でしたか?
A.
REBORN(生まれ変わる)っていう公演のコンセプトに決めていると及部先生から聞いたとき、「それ・・いいなあ」と素直に自分の心に入ってきました。
さきほども言った通り、当時は死んでいたってくらい自信を「亡く」していた僕だったので、REBORNは今まさに僕自分に必要なことで、他人事じゃない、と。
当時、と言ってもまだ1年くらい前のことなわけですが(笑)、音楽活動もほとんどやってなくて作品を「ガラクタみたいなもの」と卑下していたくらいで(笑)
及部先生も、いわゆるフラメンコらしくない曲も好きじゃないですか?踊りの曲にも多ジャンルで色々取り入れてらっしゃるし。
だから、特定のジャンルに縛られず、もっと自由に、広い感覚で自分の作品を提供することが出来るライブになる、という予感がありました。僕自身の音楽は聴いてもらうとわかる通り、ジャンルレスで、聴く人によっていろんな感想を抱いてもらえるのを目指しているところがあって。そういうところが一致したんですよね。ほかのフラメンコ教室さんでは逆に僕の音楽は受け入れられなかったんじゃないでしょうか。
Q.
EPのタイトルを「RenacidA/その生命」にした経緯を教えてください。
A.
単純に言ってしまうと、英語REBORN→スペイン語Renacidaだから、なんですけどね(笑)
フラメンコがスペイン発祥、というのに寄せてみた、というか。及部先生のREBORN・・を当初はイメージしていた曲だったので女性形のRenacidaに(男性形はRenacido)しました。
で、なぜ最後のaを大文字Aにしたかというと、先頭の「R」と「A」対称配置にすると見栄えが良いから。ここに生まれ変わる意志の強さ、オリジナリティを込める意味もありました。制作を本格的に始めるタイミングでつけていたのですが、結局この仮タイトル「RenacidA」を本採用することにしたんです。それから「その生命(せいめい)」を最終的に付け加えたのですが、映画のタイトルみたいでドラマチックな感じだと思って。なかなかいいでしょう?(笑)
Q.
カノルス自身のREBORNのことをもうちょっと聞きたいです。今、ブログなんかを読ませてもらうと、自信満々!な印象を受けるのですが(笑)、去年そこまで堕ちてしまっていたのは結構根深い問題があったのじゃないかと思うのです。そのあたりどう思いますか?
A.
今でこそ「死んでいた」と理解できている2022年までの自分ですが、及部先生から「REBORN」の話が出るまでは、自分が死んでいることにすら気づいてなかったですね。それくらい自分のことを低く見積もるのがクセづいていたってことです。それは傷つかないように自分を守ることのようでいて、いつも「こんなはずじゃないのに」という気持ちがベースにありました。そうやって徐々にすり減っていってたんだと思います。
なんとか、一念発起して、2018年にフルアルバムを作ったわけですが、最初にも言った通り、鳴かず飛ばずがトドメになってしまった。音楽を辞めるまではいかなかったけど、それほど自分の音楽の持っている力とか、もはや信じていなかったですね。
それから・・そうですね、もっとさかのぼると、10年前にバンドをやめたあと、結構引きずっていたことも大きな要因だと思います。バンドは僕を入れてメンバー4人で活動してたのですが、活動しているときもメンバーにすら理解されていなかったんです。僕はギターとヴォーカルを担当し、曲もすべて作っていましたが、ある意味僕のワンマンバンド。
言い方悪いけれど、メンバーはみなイエスマンで、一見僕のことを理解しているようで表面的なところしか見ていなかった。
例えていうなら、面倒ばかり言う上司を、おだてて祭り上げておけばいいか・・みたいな待遇をされてたんじゃないかな(笑)
貸しスタジオの予約からライブのブッキング、そういう細かいことも僕が全部やっていましたからね。言わないと何一つ動いてもらえないという状況に、かなりストレスを感じていた。
一番つらかったのは、僕の曲の良さを引き出すだけの理解力や技術、もっと言えば愛みたいなものが、メンバーには圧倒的に足りてなかったことだと思います。まあ、こう言う話は今さらだし、あんまりいうと非難みたいになっちゃうのでやめておきますがひとつ言わせてもらうなら、僕の思い描いているスケールがたぶん大きすぎてみんなには理解不能だったと思うんです。これは各人のキャパシティの問題なのでしょうがないことなんですけどね。僕自身もきっと途方もないことを言ってしまってたんだと思いますけど、彼らの理解が追い付いていないことにも気が付けてなかったし。
僕も、理解されてる・・と信じたかったから、メンバーにゆだねてみるけどいつも空回り。何故いつも同じなんだ?と。
そんな状態でライブをやっても当たり前だけど、お客さんにバンドや曲の魅力が伝わらないですよね。
そんなことが続き、とうとうバンドをやめよう、と僕が言い出した時、あるメンバーが言った言葉が忘れられないですね。
「かまわないよ、俺は君の曲に特に思い入れはないから」
あんなにイエスマンだったのに辛辣ですよね。本音を聞いた時には、時すでに遅し。
そういう経緯もあって、人と組んで音楽活動をやるのは本当にイヤになってしまい・・。メンバーとは離れ、一人になったけれど、自信を無くしていて。もちろん新しい曲を作って抗ったりもしたけれど、なんかむなしい感じはずっと付きまとっていた。
そうなってくると、自分自身がダメなのじゃないかと疑うことになってしまったし、独りよがりなことばかりやっている・・と思うようになりました。
でも、及部先生に「あなたの曲は素晴らしい!」とREBORNのきっかけをもらったことで、「そうだ。本当の自分はこんなもんじゃないはずだ」と自覚ができて。そこからダイナミックに行動が変わりましたね。今、爆発的に自分が変わって行っているのがわかります。いや、というよりは、「本来の自分を取り戻している」という感じが近いですね。このくらいの馬力が自分には元々あったんだとわかって驚きと嬉しさがすごくあります。
Q.
今回の制作で新たに取り入れている機材、楽器などはありますか?
A.
コンピュータとマイクなどの楽器を接続させる「オーディオインターフェース」という機材をプロ仕様のものに変えたことが大きいですね。これまで、レコーディングに関してなかなか本腰を入れられなかったのは環境がよくなかったのが大きな要因ともいえます。この機材を買ってからは毎日曲を作っていても、ストレスを感じなくなりました。制作環境はやる気に直結します。創りたくなる部屋も日々アップデートしています。照明とかも僕にとっては大事な「機材」ですね。
スタンスとして、道具を毎日使っていくことというのは大事だなと思います。デジタル機器も日によって調子が微妙に違うんですよ。人間の体調みたいに。不思議だけど(笑)
あんまり使ってないと反応が鈍くなる感じがあります。
楽器は、フラメンコ用のギターが我が家に縁あって来たことがよかったですね。かなり昔・・90年前に作られたらしいのですが、すごく鳴っています。ボディだけでなく、ギター全体で鳴っているという感じ。作り手の込めたエネルギーが長い時を経ても失われるどころか、高まっているのかもしれません。こんなことを言うと変に思われそうですが、出合ってすぐにこのギターに自分が受け入れられていると思えたんです。そのくらいすでに馴染んでいる。
2曲目「月に華、巡る」や3曲目「mugen.」などで聴けます。
それから、機材の話じゃないですが、今回、制作期間にある程度余裕があって良かったです。僕自身のREBORNには助走が必要でしたし、すぐに飛べる状況にはなかったので。
Q.
フラメンコにはどんな印象を持っていましたか?携わって意識はかわりましたか?
A.
カッコいい踊り、として考えていたところもありますが、すごくリズムに興味がありました。そこはやっぱり音楽家なので。
変拍子が好きで。5拍子とかにも以前から興味を持っていて、変拍子が入っているジャズを聴いていたり、自分の曲にも使ったりしています。独特なノリが生まれて面白いんですよね。ただフラメンコはそのリズムで踊るわけなので、非常にテクニカルな踊りなんだな、というのが今回わかりました。まだ全然理解できていないので、色々教えていただきたいですね(笑)
今回のフローレスの教室テーマ曲「月に華、巡る」も独特な拍の取り方が途中入っているんですけど、狙ったわけじゃないんです。でも少しフラメンコのテイスト、ハンドクラップとか入れたことでそういう方向になっていきました。
(※フラメンコには独特なリズム12拍子があります。3・3・2・2・2、2・2・3・3・2など。)
Q.
EP制作が本格化していた3月9日に「寝かせてある…ブレイクスルーを待っている」という話を伺っていました。あの時は、どんな心境でしたか?またどんなブレイクスルーがありましたか?
A.
寝かせるという工程は料理でもお酒でも、大事だったりしますよね。とげとげしかったものがまろやかになる、というか。もちろん音楽制作においてそれは比喩なわけですが、僕の頭の中がクールダウンするのを待っていたのです。制作に熱中すると、やりすぎてしまう時があります。いわゆる蛇足というやつで、余計なものを付けてしまったことに気が付けなくなっている。あと、これ以上どうしていいかわからなくなって手が止まってしまうとかっていうのもあります。
そういうとき、いったん放置することで冷静になり、自然とこの後どうすべきかがわかってきます。これがブレイクスルーということです。細かくは覚えていないのですが、曲それぞれにやはりそういう「抜けた」タイミングというのはありましたね。
Q.
そこから20日後の3月29日のブログ記事で、レコーディングがほぼ終了したとありました。とても自信に満ち溢れ、自分が制作した曲ではないような感覚があるというお話がありました。あらためてお話を聞かせてください。
A.
生活のルーティンとして、毎朝起きたらすぐに曲作りをしているんですが、ここで作った曲をあとから聴き返してみると、自分で作った曲とは思えない感覚になることが多いんです。フローレスのテーマ曲をはじめ、ほとんどの曲が朝のルーティンで生まれた曲。
朝は特別な時間で、多くのビジネスマンなんかが早起きに取り組んでいるように、雑念がなくて迷いなく進めるという感覚が得やすいんです。発想も柔軟になるのか、思ってもみなかったような曲が書けるんですよね。音楽的なルールとか無視で(笑)
僕自身がそれを楽しんでいるという感じ。こんなに曲作りが楽しいと思ったことはかつてなかったです。
今回のEP収録曲の仕上がりは、狙ってそうなった、というよりかはこの曲たち自身が理想とする方向に進ませた、という感覚でした。それでどこか自分の曲ではないような、という表現になりました。
それからフラメンコ教室のテーマ曲「月に華、巡る」は特に及部先生の言葉「女性のしなやかさ」というキーワードが頭にずっとありました。これを音楽で表現するとどんな感じだろうと。
今回のEP自体が、歌モノじゃない作品、を念頭にスタートしていたのもあって、普段歌モノ作品がメインだったからこそ違う立ち位置になった、というのもありますね。
Q.
カノルスは普段ヴォーカルなわけで「もっと歌いたい!」というのは無かったですか?
A.
そこにこだわりはないですね。歌がなくてもちゃんとカノルスならではのオリジナル作品になっていさえすればいいし、そこは打ち出せたと思っています。また、今後の作品・・今年の夏くらいに発表しようと思っている作品では歌モノも予定していますのでギャップがあって聴く方も楽しんでもらえるかなと。
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