あれほど盛り上がっていた客席はシンとしてしまった。
大手スポンサーとはいえ、ミュージシャンとしては知名度がからきしないスウェルトであった・・。これはある意味、公開処刑・・。
居た堪れなくなり、カノルスは観客をかき分け、ステージに上がった。
「お、いたのか、カノルス!恩に着るよ。連れてきたピアニストが腹を下してトイレに籠っちまったんだよ」
客席からは失笑が漏れる。
スウェルトはカノルスの耳元で「ここはこんな感じで弾いてくれればいいから」とニュアンス指示。カノルスも、やれやれ、どうにでもなれ、と言う気持ちで鍵盤の前に座り、手に持っていたムーンシャインを一口煽った。
スウェルトはサックスから黄金色の長い翼の装飾のついたフルートに持ち替えていた。
それが沈みかけた夕陽を反射して煌めき、カノルスの目を眩しがらせた。
静まり返る観客達。
スウェルトがカノルスに向き直り、言った。
「久々だな、一緒に演奏するのは。俺たちのファンはいないから失敗しても心配いらないな。ハハハ。ともあれ、一発かましてやろう」
図らずも、カノルスは大勢のオーディエンスに向き合うことになったのだった。