ARØMが眠る場所 – 不思議なフシギなウィスラン事件簿(第2話)

それは確かに、動いていた。まるで、彼のまなざしに応えるように。

このストーリーに寄り添うサウンド

◇主演/イネス

数日後、イネスはいつものように蒸留所の地下貯蔵室で仕事をしていた。
樽での熟成段階に入ったARØMは、時折、樽をゆっくり回す作業が必要になる。熟成をさらに深める目的だ。
イネスはこの頃、ARØMの声が聴こえるようになった(気がする)ため、樽を廻しては耳を当てて、何か聴こえないかと確かめるのが習慣になっていた。

その日もいつものように作業をしていると、ひとつの樽から、明らかに異質な音がした。
それは音というより、遠くの浜辺で風が岩をかすめてヒョーヒョーと鳴くような、低くヴィブラートがかった笛のような音だった。

イネスは、ふと脳裏に浮かんだ言葉に驚いた。
「……ヘリオスの叫び」

彼が幼い頃、祖父が繰り返し語っていた言葉をまたひとつ、思い出す。

「ARØMは、魂を運ぶ舟といえよう。
だがその舟が辿り着く先は、海の果てではないのだ。
海中深くに沈んだ“最初の火”――
ヘリオスの魂が封じられた洞(うろ)のことを云う」

イネスは樽の蓋を少しだけ開け、中をのぞき込んだ。
すると、暗闇の底に、**金色に揺らめく“光の縞”**が見えた。
液体の反射ではない。
それは確かに「動いていた」。
まるで、彼のまっすぐなまなざしに応えるように。

背後で、ヒョーヒョーと音が鳴り、風を感じた
熟成庫の通風孔はさきほどすべて閉じたはずだ。

彼がとっさに振り返ると、薄暗い地下倉庫の壁に、無数の小さな“模様”が浮かび上がっていた。
それは太陽神ヘリオスの紋章に似ている。
伝承では、覚醒の兆しとされる「日輪の六角印」だった。

その夜、イネスはまた夢を見る。
風が吹き荒れる断崖、暴れる潮。
そして、その岬に佇む一人の黒衣の人物。
彼の背には大きな2枚の翼と、ギターのような楽器の影。
月と太陽が同時に空に煌めき、その間を結ぶように演奏していた

イネスは名を知らないが、彼の頭上には――

「f」と「F」の形をした鳥が、何かを象徴するように飛んでいた。

ストーリーメモ:
金曜日は、ウィスランの民話や神話、不思議な出来事にフォーカス!蒸留所で働いている青年・イネスの家は、代々漁師をして生計を立ててきましたが、祖父はスピリチュアルな能力を有していたため、神事ではシャーマンとしての役割も果たしていました。彼はすでに亡くなっており、イネスの父にはまったくその能力がなかったため神聖は血は途絶えたと思われていたのですが、どうやらその力がイネス青年に引き継がれているようです。
彼が幼少の頃から見ていた美しきヌドリアの海に厳然と、また悠然と佇む巨岩・ヘリオス。その巨岩はこの頃何らかのエネルギーを、イネスに送ってきているようです。彼が働く蒸留所でも異変が起き始めます。

次回予告
”その光は、ただの天の揺らぎではなかった。”
ウィスランで見られる不思議な自然現象の数々。
その中でも際立っているルリノア。
あなたはご存知ですか?
不思議なフシギなウィスラン事件簿第3話
来週も、お楽しみに!