『──その音に、心臓を撃ち抜かれたのは、夜の10時27分だった。』
このストーリーに寄り添うサウンド
◇主演/レイ・デイ
冷え込みのきつい木曜の夜。
港町ウィスランの海沿いにある、知る人ぞ知るバー**「KUGE BAR」**は、
重たい木の扉の奥で、ゆるやかにウッドベースの余韻を溶かしていた。
「今日はオープンマイク、アルよ」
いつものように、店主・公家サンは片髭だけを上げてそう言った。
レイ・デイは薄手のチェックコートのまま、バーカウンターに腰かけ、
いつものように「ホットARØMレモン割り」を頼む。
「今夜は外の空気が澄んでいるし、いい夜になる気がするんですよ」
「もしかしてまた“あの人”を待ってるアルか? …カカ、さあね、どうカナ」
そう、レイは**“ある人”を待っていた**。
数ヶ月前、誰かがこのバーのオープンマイクで奏でた音に、心を奪われてから──
その人物の名前も姿も知らないまま、レイは毎週木曜に通い詰めていた。
耳に残るあの音だけが、彼の存在を証明していた。
たった一度しか聴いていないのに、何故だろう。
レイの中には確かなインスピレーションがあった。
「もう一度、あの音を聴かなくちゃ」──。
──その音に、心臓を撃ち抜かれたのは、夜の10時27分だった。
夜の更けはじめ、人の出入りもまばらになった頃。
ふいに、木の床を叩くような、硬質な足音がひとつ。
振り向いたレイの視線が、
バーの奥のステージに立つ細身の男にぶつかった。
深いネイビーのフード付きコート。
手には古びたアコースティックギター。
顔はスポットライトの影ではっきりとは見えない──
だが、彼が椅子に腰かけ、爪弾いたその最初の音で、レイの中にに強力な光が差し込む。
──それだ。
それが、あの夜の音だった。
岬から吹いてくる湿った潮風の匂いを纏いながら、
空に天高く舞い上がっていくような孤高のコード。
ギターの弦が、まるで言葉を失った魂のように、震えていた。
彼が身体の底から絞り出す「光の言語」。
レイは息をするのも忘れていた。
心臓の奥、誰にも触れられたことのなかった部分に、
この音は何かを置いていく。
切なさとも違う。憧れとも違う。
それは運命に似たもの。
演奏が終わると、拍手の中で彼は一礼し、何事もなかったように立ち去ろうとした。
慌ててレイは立ち上がり、カバンを引っ掴んで彼のあとを追おうとした──
が、すでに扉の向こうに彼の姿はなかった。
「……ウソでしょ」
言葉をなくすレイの前に、
カウンター越しにARØMを注ぎながら、公家サンが静かに言った。
「会いたい人には、なかなか会えない。
でも、それでも追いかけてしまう──
それが“音楽”ってものアルな」
レイ・デイ、心撃たれる。
ここから彼女の一途な追跡劇が始まる。
ストーリーメモ:
木曜のヒロインは、レイ・デイ。ウィスランの音楽レーベル「SHIN-KAN-KAC」で広報と制作を担当している。彼女のセリフを借りるなら「ズキュンッッてキタ」素晴らしいウィスランサウンドを世界に紹介したいという野望がある。KUGE BARの常連。ARØMを自分なりにアレンジしたカクテルをいつも飲んでいる。
次回予告
木曜の晩はいつもKUGE BARへ足を向けるレイ・デイ。
ズキュンッッてキタ、音楽家の演奏をもう一度聴くために・・。
ところが、彼の代わりに姿を現したのは”毛むくじゃらな”あの紳士だった。
レイ・デイ、失われた光を求めて第2話
来週も、お楽しみに!


