『ズキュンッッてキタのよ、あの夜……』
このストーリーに寄り添うサウンド
◇主演/レイ・デイ
毎週木曜の夜、決まってレイ・デイはKUGE BARのカウンターに現れる。
白のワンピースに、すこし擦れたベージュのトレンチ。
店の扉を開けたときの、あの風鈴のような軽やかな音(多分それは彼女の大きめな六角型のイヤリングが奏でる)が、彼女の登場の合図だった。
「いらっしゃいませ、レイ嬢。今日も、ひとりアルか?」
店主・公家サンは、いつもどおりのトーンで迎える。
しかし、今日の彼の笑顔には、どこか「興味」が混ざっていた。
カウンターの端、3番目の席に腰を下ろすと、レイは静かに言った。
「いつもの、お願いします」
“いつもの”――それは、ARØMのソーダ割りに、すこしだけライムの香りを足したもの。
彼女がこの店に初めて来た夜、自分で即興的に作り上げた、**「月の記憶」**という名のカクテル。
「レイ嬢、その“いつもの”、って言い方、音楽的な匂いがするアルな」
「…そう?私は、音楽のことなんて、実はよく知らない」
嘘だ、と公家サンはすぐに見抜いた。
彼女の指先が、いつもグラスを4分の5拍子で軽く叩くことを、彼は知っている。
その夜、奥の席でひっそりと飲んでいた一匹の男が、レイのほうを見つめていた。
――いや、一匹というのは失礼かもしれない。
毛むくじゃらの、けれど気品に満ちたペキニーズ犬のような紳士。
店の誰もが「見たような気がする」と口を濁すその存在。
カウンターから奥の席に向き直り、
「…シシマールさん、久しぶりですね」
「……(こくん)」
声を出さないその男に、レイは屈託なく話しかけた。
まるで旧知の仲のように。
それを見ていた公家サンが、グラスを磨きながら笑った。
「カカカ……やはり、あの犬(ヒト)の音に、惹かれて来たアルな」
レイは、グラスの底を見つめたまま、そっと呟いた。
「ズキュンッッてキタのよ、あの夜……」
風鈴の音が、ふたたび鳴った。
誰かが入ってくる音――いや、違う。
レイの心に、またひとつ風が吹いた音だった。
ストーリーメモ:
木曜のヒロインは、レイ・デイ。ウィスランの音楽レーベル「SHIN-KAN-KAC」で広報と制作を担当。彼女のセリフを借りるなら「ズキュンッッてキタ」素晴らしいウィスランサウンドを世界に紹介したいという野望がある。KUGE BARの常連。ARØMを自分なりにアレンジしたカクテルをいつも飲んでいる。
神出鬼没なイヌ紳士・シシマールとはどういう関係なのでしょう。
次回予告
まだ学生だったレイ・デイの思い出話。
イヌ紳士シシマールと運命的な出会いをしていたのです。
レイ・デイは失われた光を求めて第3話
来週も、お楽しみに!