第4話:来訪者 – イルニェシュタン譚

『記憶は失われても、
 音は鳥に姿を変えて、思い出せと追いかけてくる。』

このストーリーに寄り添うサウンド

ぜひ聴きながら読み進めてください

◇語り部/ムッシュ・カノルス


 

夢中で音楽を奏でていたのだが、気が付くと眠りに落ちていたらしい。

イルニェシュタン。
その言葉が頭に残っている。あれは夢じゃない。
小窓を開けて外を見ると、海霧がうっすらとかかっている。

夜明けだ。
まだ太陽は目を覚ましていないらしいが、水平線にはにわかに夜明けの気配が漂っている。

その時、
パァーーー
っと遠い水平線の先から、徐々にフェード・インしながら管楽器の音色が耳に届いた。
一瞬それは、汽笛かと思った。

遠くからこちらへ何かを伝えたくて呼びかけるようであり、
一緒に行こうと迎えにきたようでもあった。

しばらくして、2つの影がこちらへ飛んでくるのが見えた。

弾む音符のような、翼のあるものたち。
ネイビーとシルバーの翼をもつ鳥たち。
見たこともない鳥だった。いや、どこかで……。

片方は小さく、鋭く素早い動きで、閃光のような尾を引きながら飛ぶ。
もう一方はより大きく威厳をたたえ、円を描くように悠々と舞っていた。

2羽の鳥たちは、灯台のまわりをしばらく旋回していたが、やがて部屋の壁にシルエットとして焼き付いていった。

「…fとF…」

私は、そのふたつの鳥が何を示すか知っている、と思った・・。
だが、記憶を明確にしようとすると靄がかかって押し戻されてしまう。

これは、何だ?
なぜ、泣きたくなるんだ?

そしてまた、

パァーーーーーー

と鳴り響いた。
サックスの音色だ。さっきよりクリアに聴こえる。

私は静かに、目を閉じた。
そして、口の中でつぶやく。
「……ファズフォルミダーブル。」

言葉の意味はわからない。
けれど、その響きだけは、身体の奥底に残っていた。
記憶は失われても、音は鳥に姿を変えて、思い出せと追いかけてくる。

懐かしい響きだ。

2羽の鳥たちはもういなかったが、
失われた記憶への追憶が残った。

To Be Continued…

エピローグサウンド

果てのない海原、空模様は何を告げるのか・・次回のお話もお愉しみに

『第5話:燻された夜』に続きます。

ストーリーメモ:
記憶を失っているカノルスに「fFの記憶」が2羽の鳥たちによって呼び起こされます。

f:閃光の小鳥(Inspiration)は、
音楽家カノルスの直感・即興・ひらめきの象徴です。光速でアイデアを運び、空間すら飛び越える力を持ちます。小さな姿だが、最も自由な存在とされています。

F:重翼の鳥(Wisdom)は、
経験・知識・歴史の重みの象徴。過去を記録し、未来を見据え、fを導き守る盾のような存在。かつては創造者の傍にいたが、長き眠りについていたとされます。

f と F は同じ巣から生まれた双子(ツインレイ)のような存在。引き離されていたものたちが再び引き合うことの象徴として姿を現したようです。