旧知の友・ストラト君はかく語りき

太古の昔。
ギターを弾いてみたい!と、初めて手にしたのがストラトキャスターというタイプのエレキギターだった。確か3万6千円だった気がする。父親に頼み込んで買ってもらったのだ。

当たり前だが、エレキギターはアンプにつながないとまともな音がでない。
そういうこともよく知らないまま、ギターだけを手に入れてテロテロとスチール弦をつま弾いてたあの頃。どうして、ジャーンって言わないんだ?

気が付けば、そんなストラト君は部屋の飾り物になってしまっていた。
木目がキレイで、壁に立てかけておくとサマになるけど、弾かなきゃ何の意味もない。
買ってもらったところで概ね満足してしまい、そこから興味が湧いたり薄れたり・・を繰り返していたのだった。このギターでいつかはバンドをやれたらなとは思っていたが、なかなかメンバーに恵まれなかった不遇の時代を彼は知る。

今でこそ、色んなことが一人でもできるイイ時代になったが、当時はエレキのギタリスト一人いたところで何も始まらなかった。テクニックもないし。
今でも覚えてる。音楽をやりたい気持ちはあるものの、それをどう行動に移していいのかさっぱりわからなかった、あの悔しい日々を。
ネットも無ければ、教えてくれる仲間も先輩もいなかったからムリもない。
田舎の少年はロックスターの妄想をするしかなかった。

のちにバンドを組んでいた時代もあるけれど、このストラト君を手にした時からずっと、僕はたった一人で試行錯誤してきたような気がする。行き詰ってばかりだったけど、不思議と一度も音楽を辞めようと思ったことはなかった。
自分には確固たる何かがあると信じていたし、信じたかった。

2025年、春のある日。

物置からこのストラト君を10年以上ぶりに引っ張り出してきて、思い出に浸っていたのだが・・彼(ストラト君)が僕を見るなり笑いながらこう言ったのだからタマげてしまった。

「キミさ、出会ったころとまるきり変わってないな。パッとしないとこなんてそのまんまだ」

ギクリ。
相変わらず一人で音楽を作り、どうやってプレイするか悩んでいるんだものね。お客さんもお世辞にも多いとは言えない。
少し情けない気持ちにもなり、苦笑してしまう。
彼は続けてまたこうも言う。

「よーく見てみな。オレはまだくたばっちゃいないよ。時が巡ってきたんだ。もう一回一緒にやらない?でさ、爆音でトぼうぜ!」

バネを飛ばし彼はそう言った

そういえば、このストラト君、バンドで使っていたとき、突如音が出なくなった。
だいぶ使ったし壊れるのは仕方がないとこの時諦めてしまい、お蔵入りにしたのだった。
だけど、バラしてみたら、何のことはない。


単に配線が一本外れていたに過ぎなかったのだ。

ため息を漏らす。でも、悪い意味じゃない。
「嬉しいよ。うん、やろう。そうは言うが、僕だって少しくらい成長してる」と僕。

まるで少年たちがバンドを組む時みたいな、ワクワクのエネルギーがあたりに充満していた。
彼が声をかけてくれたことが嬉しかった。一匹オオカミを決め込んでる?僕にも仲間はありがたい存在だ。多くの敵がいても、一人の本物の仲間に救われるのだ。

「OK!じゃあ、まずはオレを完全復活させて、名前を付けてくれ。キミ、ネーミング得意だろ?」

そう言ったきり、彼は黙り込んだ。
あとは音色で伝えてくれるだろう。
ある気持ちのいい、春の昼下がりのことだった。

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